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NOTES

Zimbo Trio / Zimbo Trio

review:

ジャズサンバの超名門ピアノトリオ、Zimbo Trio(ジンボ・トリオ)が1964年に発表した第一作です。様々なビックネーム(ヴォーカリストやアメリカのジャズマン)のバッキング経歴やその後2001年まで続く息の長い活動期間は、数あるジャズサンバコンボといえどもZimbo Trioの右に出るものはいません。そういう意味ではこのトリオこそがジャズサンバの歴史そのものであったとも言えるのかもしれません。Zimbo Trioのファーストアルバムは比較的早い段階からCD化されており、Sambalanço Trio(サンバランソ・トリオ)のファーストTenório Jr.(テノーリオ・ジュニオール)の『Embalo』Manfredo Fest Trioの3枚目Milton Banana Trioのファーストといった作品とともにジャズサンバの代表作として店頭でリコメンドされてきました。最近になって6枚組のCD BOXセットという形ではあるものの1969年までの諸作品がリイシューされたことは非常に喜ばしいことです。

Zimbo Trioが結成されたのは1964年。ちょうど第一作が発表された年にあたりますね。リーダー兼ベース奏者のLuiz Chaves(ルイス・シャヴィス)とRubens Barsotti(ルーベンス・バルソッティ:通称ルビーニョ)は1958年にBrazilian Jazz Quartet名義で『Coffee & Jazz』という真面目なジャズ作品を発表しているので、この1964年の時点で充分なキャリアを積んだジャズマンだったということがわかります。この二人にピアノのHamilton Godoy(アミウトン・ゴドイ)を加えることでZimbo Trioが誕生しました。ジャズサンバでGodoyというと、重要人物が3人いて、まずひとり目は作曲家のAdylson(アジウソン)、次にこのHamiltonが続き、最後にBossa Jazz TrioのピアニストAmilson(アミウソン)。全部で何人兄弟だったのかは不明ですが彼らが兄弟であったことは確かであり、ゴドイ家はブラジルの名門音楽一家と言うべきでしょう。それはともかく、トリオの成り立ちとしては既に実績のあった中堅2人に若手のピアニストが抜擢された形であると考えられます。

タムを主体とした性急なドラムパターンから始まる‘Zimbo Samba’はHamiltonの兄Adylson Godoyが作曲した高速ジャズサンバ。ジャズサンバの大きな魅力のひとつでもある開放的な雰囲気を徹底して排した、どこまでもシリアスな曲調となっています。テーマ演奏後、16小節をピアノソロ、サビからの8小節をベースソロ、残りの小節にセカンドリフを配置し、その流れの中でテンポダウンしていくというアレンジになっています。このアレンジ手法はジャズサンバ作品ではよく行われるものといえるでしょう。

続く‘Menina Flor’は、シンガー兼ギタリストLuiz Bonfá(ルイス・ボンファ)が奥さんのMaria Helena Toledo(マリア・エレナ・トレド)と共作したボッサナンバー。ジャズサンビスタ達も取り上げることの多い曲です。ここでは前の曲のシリアスな雰囲気を中和するようにミディアムテンポで演奏されます。イントロで披露されるピックアップや、テーマ演奏時の自由なベースライン、その後のベースソロなど、Luiz Chavesを大きくフューチャーした内容となっていて、さすがこの時点でベテランの域に達しているだけあり、演奏に余裕が感じられます。ちょっと音色がブインブインいう録音が個人的には気に食わないのですけれども。

3曲目は‘Garôta De Ipanema’。「イパネマの娘」という邦題のついた、言わずと知れたボッサスタンダードです。Bメロを土台にしたゆるやかなイントロルバートから一気にテンポアップして火のつくようなアップテンポの中イケイケの演奏が展開されます。この曲でも1曲目と同様、やはりセカンドリフもしっかり用意、さらにその後のBメロパートでは12小節にわたってピアノとベースの一糸乱れぬユニゾンを配し、細部までキメキメの演奏を高い技術力で繰り広げていきます。ここにはかつてAstrud Gilberto(アストラッド・ジルベルト)が『Getz/Gilberto』というアルバムに残したようなリラクセーションは皆無。まさに超絶技巧。アンサンブル重視型ジャズサンバのお手本といった内容です。

‘Inútil Paisagem’はTom Jobim(トン・ジョビン=アントニオ・カルロス・ジョビン)とAloysio De Oliveira(アロイジオ・ヂ・オリベイラ)によるミディアムボッサ。邦題は「無意味な風景」といい、気怠い雰囲気をたたえた曲調です。本作でもバラードで演奏していますが、イントロやBメロ後で演奏されるベースのハーモニクスを使用したアレンジが特に印象的です。テーマ後に始まるベースソロはやはりクオリティが高く、余裕が感じられます。

5曲目は‘Barquinho Diferente’。部分的にワルツを取り入れたイントロとテーマアレンジが秀逸。テーマ後にちょっと出てくるリフレインもカッコいいし、ソロの後のピアノとベースのユニゾンメロディもいかにもジャズサンバといったアレンジと言えるでしょう。なお、Milton Banana Trioもこの曲の録音を残しています。

‘Berimbau’はギタリスト、Baden Powell(バーデン・パウエル)が作曲したアフロサンバ。ジャズサンビスタに取り上げられる頻度が極めて高い代表的な楽曲としても名高い一曲です。この曲でもLuiz Chavesが大活躍。Bobby Thimmonsの「This Here」に出てくるようなベースオブリガードやアルコ(弓弾き)によるベースのテーマ演奏など、Luiz Chavesの豊かなアイデアと高い技術力が伺えます。ピアノとのユニゾンリフを挟みピアノによるサビ、そして再び現れるリフ。その後は転調を2回程していきながらテーマを展開していくという非常に凝ったアレンジがなされています

‘Berimbau’に引き続き、Baden Powellのアフロサンバ2連発。‘Consolação(コンソラサォン)’は煽るようなハイハットとベースのオスティナートによる激しいプッシュと、ゆったりとしたピアノの主旋律が鮮やかな対照をなすアレンジ。一度メロディを1コーラス演奏した後、転調してさらにもう一度テーマを演奏しますが、今度はいわゆる典型的な高速ジャズサンバスタイルによる伴奏で一層激しさが増します。テンポチェンジはジャズサンバの醍醐味ですね。

8曲目は‘Diz Que Fui Por Aí’。モーホ(裏山)の黒人サンビスタ、Zé Keti(ゼ・ケチ)による作曲。イントロこそ音数は多いものの、全体としては終始落ち着いたミディアムボッサで演奏されます。ミディアムボッサによる演奏が珍しく感じられるというバンドもなかなかいません。それだけ本作は速く激しくシリアスな演奏が多いということでしょう。

‘So Sem Paz’は再び兄のAdylson Godoyによる作曲。Zimbo Trio以外では、弟のAmilsonが所属するBossa Jazz Trioを始め、Airto Moreira(アイルト・モレイラ)を擁した第2期Sansa Trio(サンサ・トリオ)、そしてブラジル最高のヴォーカリスト、Elis Regina(エリス・レジーナ)が『Samba, Eu Canto Assim』というアルバムでRio 65 Trio(リオ・セセンタ・イ・シンコ・トリオ)をバックに録音を残しています。つまりジャズサンバの名門トリオがこぞって取り上げているという、まさに知る人ぞ知る名曲であるといえるでしょう。Zimbo Trioの演奏はちょっとだけ速めのミディアムテンポ。ソロ途中でリズムのキメが入るなど細かいアレンジが施されています。同じくアレンジ力に定評のあるBossa Jazz Trioよりもユニゾンによるオブリガード(対旋律)が多用されている印象。

またしても高速ジャズサンバが始まるかと思わせるイントロから、Tom Jobim作曲のボッサスタンダード‘Vivo Sonhando’に流れ込みます。元気のよいミディアムボッサ。テーマ後4小節に配置されたインタールード的なピアノとベースのユニゾンが変化をつけます。戻りのテーマのあとイントロで出て来た高速フレーズを演奏して終了。

‘Só Por Amor’は本作では3曲目の登場となるBaden Powellの楽曲。ただし、前の2曲のようなアフロサンバものではなく、バラードとして演奏されています。こうしてみてくると、この第一作はJobim、Baden PowellとAdylson Godoyの楽曲を中心に構成されたようですね。翌年発表される『Vol.2』ではEdu Lobo(エドゥ・ロボ)の楽曲などが取り上げられることになります。

アルバムの最後、‘O Norte’はベーシストLuiz Chavesのペンによるオリジナル。この曲の陽気で茶目っ気のある雰囲気は、これまでの流れの中では少し毛色の異なる曲想に聞こえますが、こういう変化をつけた締め方というアイデアもアルバムの流れとしてはおもしろいですね。長めのドラムソロがフューチャーされています。

というわけで、Zimbo Trioは基本的にアレンジ重視型ジャズサンバと分類できます。アレンジを重視するコンボというと、Bossa Jazz Trio、Manfredo Fest Trioあたりが挙げられますが、それらのトリオの作品群の中でも本作は最もストイックに練り込まれたアンサンブルであるという印象を受けます。この緻密さはこれ以降の作品でもちょっと聞くことはできない完成度があると思います。アレンジ重視型ジャズサンバの一大傑作といえるでしょう。

tracks:

  1. Zimbo Samba (2:07)
  2. Menina Flor (2:34)
  3. Garôta De Ipanema (4:38)
  4. Inútil Paisagem (2:31)
  5. Barquinho Diferente (2:16)
  6. Berimbau (3:06)
  7. Consolação (2:53)
  8. Diz Que Fui Por Aí (2:10)
  9. Sou Sem Paz (4:06)
  10. Vivo Sonhando (2:04)
  11. Só Por Amor (2:44)
  12. O Norte (3:49)

member credit:

  • Hamilton Godoy (piano)
  • Luiz Chaves (bass)
  • Rubens Barsotti (drums)

release year:

1964

label:

RGE

参考リンク

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    • ドラムとベースでいかに上質なジャズサンバのグルーヴを作り出すかが時間を割くべき今後の課題であります。
    • RT : 2017年最初のライブ、無事に終了いたしました。ご来場下さいました皆様、誠にありがとうございました! https://t.co/O5dReasp0H

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